
【2025年最新】在宅コールセンター導入の手引き|メリット・課題・システム要件など
コロナ禍を経て在宅勤務が以前よりも普及しているなか、コールセンターの運営モデルも出勤型から在宅やハイブリッド型へと変化しつつあります。在宅コールセンターは、BCP(事業継続計画)対策や人材確保、離職率の抑制など多くのメリットが期待される一方で、セキュリティ管理・品質維持・コミュニケーションなどの課題もあります。本記事では、最新の調査データを基に、在宅コールセンターを導入する際に確認すべき事項を網羅的に解説していきます。
目次[非表示]
在宅コールセンターの現状
「コンタクトセンターの在宅勤務に関する実態・意識調査」(楽天コミュニケーションズ、2023年)によると、約66%の企業が、オペレーターの在宅勤務を「現在導入中」であると回答しています。
同調査では、導入理由のトップが「従業員満足度向上や離職防止」で64%。在宅勤務によって、採用がしやすくなると回答した企業も6割以上にのぼっています。
さらに、在宅勤務のオペレーターが出勤型のオペレーターと比べて「応対品質が良い」と感じている責任者/スーパーバイザーが6割以上という結果も報告されています。
在宅コールセンター導入が推奨される理由
在宅コールセンターには、以下のような実務的かつ戦略的なメリットがあります。
推奨理由①:BCP対策の強化
BCPとは、「Business Continuity Plan」の略で、事業継続計画を意味します。自然災害やパンデミックなどの非常時でも、重要な業務が継続できるようにするための計画書です。
たとえば大雨や台風などの自然災害が発生し、交通機関がストップしてしまった場合、出勤型のコールセンターであれば勤務できる人がごくわずかしかいないという問題が起きます。またコロナ禍のようなパンデミックが起きた際は、感染拡大のリスクを抑えるため全員が1か所に集まって業務をするのが難しくなることもあるでしょう。
在宅コールセンターではこれらの問題を解決できます。交通機関が止まってしまっても、ライフラインに影響がなければオペレーターは在宅で勤務が可能です。パンデミックで行動制限が課されている場合も、在宅であれば感染のリスクを抑えながら働くことができます。出社の可否が業務に影響を及ぼすことがなくなるため、BCP対策として在宅コールセンターが推奨されているのです。
推奨理由②:人材採用の幅の拡大
2つ目は、人材採用の幅が広がることです。コールセンターは慢性的な人材不足が課題の現場が多いですが、在宅コールセンターであれば全国で採用が可能です。地理的制約を取り払うことで、地方在住者をはじめ、育児や介護などの事情で家を離れるのが難しい人材の採用が可能になります。コールセンターの経験はあるものの、家庭環境により就業できなかったという優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
推奨理由③:従業員満足度・離職率の改善
3つ目の推奨理由は、従業員満足度の向上と、離職率の減少につながる点です。
柔軟な勤務時間や場所の選択肢が増えることでワークライフバランスが取りやすくなり、結果として離職率を低く維持できているケースが多くあります。出産や育児で休職していたオペレーターも、「在宅であれば働ける」場合は退職せずに済み、ベテランスタッフの維持にもつながるでしょう。
離職率が現状すれば人的リソースの調整もしやすくなり、離職者が出るたびに実施している研修など、採用にかけていた時間や労力の減少にもなります。
コールセンターの離職率が高い理由と改善方法については、こちらの記事でご紹介しています。
コールセンターにおける離職率の課題と改善策 ― 組織が取り組むべきポイントとは
推奨理由④:コストの最適化
拠点運営費用(オフィス賃料・光熱費等)や通勤の補助などが削減できるほか、設備投資もクラウドを活用すれば最低限に抑えられる可能性があります。
在宅コールセンター導入における主な課題と注意点
在宅コールセンターには利点が多数ある一方で、以下のような課題にも対応が必要です。
セキュリティリスクの高まり
品質管理の難しさ
コミュニケーションの希薄化
勤務環境・インフラのバラつき
労務管理・制度設計の複雑化
具体的に見ていきましょう。
セキュリティリスクの高まり
在宅環境では、顧客情報や通話データを取り扱う際のセキュリティリスクが高まります。個人宅のネットワークはオフィスほど堅牢ではなく、不正アクセスや情報漏洩のリスクを完全に排除することは困難です。
クライアント対応専用の端末を支給、VPNや暗号化通信の導入、ローカル保存の制限など、多層的なセキュリティ対策が不可欠です。
品質管理の難しさ
オペレーターが自宅で勤務する場合、管理者がオペレーターの状態をすぐに確認できないため、品質の均一化が難しくなります。教育やスキル定着にばらつきが生じやすく、顧客満足度の低下につながる可能性もあります。品質を維持するには、通話モニタリングや録音の活用、オンライン研修の拡充、FAQシステムの充実など、遠隔環境でも適切に評価・改善できる仕組みが必要です。
また新人スタッフへの研修が不十分な場合も、対応品質の低下につながります。現場では直接教えていた画面の操作説明などがオンラインになり、スタッフの理解度や不安点が把握しにくくなるでしょう。新人スタッフへは、Web会議やリアルタイムモニタリングの頻度を増やし、従来のコールセンターと同じレベルの研修内容にもっていくことが大切です。
コミュニケーションの希薄化
在宅勤務では、オペレーター同士や上司とのコミュニケーションが不足しがちです。孤立感やモチベーションの低下が離職につながるケースも少なくありません。業務に関する定例ミーティングだけでなく、雑談や相談を気軽に行えるチャネルを整えるなど、心理的安全性を高める工夫が求められます。
勤務環境・インフラのバラつき
自宅のネットワーク環境や作業スペースは人によって差があり、業務に支障をきたす場合があります。通信の不安定さや騒音、プライバシー確保の難しさは、顧客対応の品質に直結します。事前に在宅勤務の可否を確認し、必要に応じて通信費補助や機器貸与、遮音対策の支援を行うことが必要です。
労務管理・制度設計の複雑化
在宅勤務では、出退勤の正確な把握や労働時間の適正管理が難しくなります。また、安全衛生や労働環境の整備についても、従来のオフィス勤務とは異なる課題が生じます。勤怠管理ツールの導入や、在宅勤務に関する明確なガイドライン策定、労務リスクを見越した制度設計が不可欠です。
在宅コールセンターに求められる「システム・運用の要件」
セキュリティを担保するシステム基盤
在宅勤務環境では情報漏洩リスクが高いため、強固なセキュリティ対策が必須です。VPN接続や多要素認証によるアクセス制御、端末の暗号化などは基本要件となります。また、端末にデータを保存せず、クラウド環境上で業務を完結させる「仮想デスクトップ(VDI)」の導入も有効です。
クラウド型コールセンターシステムの活用
在宅コールセンターでは、従来型のオンプレミスPBXでは対応が難しく、クラウド型のPBX・CTI・CRMの導入が不可欠です。クラウド型システムであればインターネット環境さえあればどこからでも接続でき、拠点や在宅をまたいだスムーズな連携が可能です。CRMとCTIを連携させれば顧客情報を即座に確認でき、応対品質を向上させられます。
品質管理と教育を支える運用仕組み
在宅環境ではリアルタイムでのフォローが難しいため、通話モニタリングや録音データの活用が欠かせません。さらに、FAQシステムやナレッジベースを整備することで、オペレーターが自己解決できる体制を構築できます。新人教育についても、オンライン研修や画面共有を組み合わせ、従来以上に体系的なトレーニングが必要となります。
コミュニケーションを促進する仕組み
オペレーターの孤立を防ぎ、情報共有を円滑にするために、チャットツールやビデオ会議の活用が重要です。特に、応対中に即時相談できる「ウィスパリング機能」やチーム単位のチャットルームを整備することで、出社型コールセンターと同等のサポート体制を実現できます。
労務管理・勤怠把握の仕組み
在宅環境では労働時間の適正管理が課題となります。勤怠管理システムを導入し、ログイン・ログオフ時間を自動で記録する仕組みを整えることが求められます。また、長時間労働を防ぐため、稼働状況を可視化し、必要に応じてアラートを出す仕組みも有効です。
在宅コールセンターのシステム運用は、オペレーターと管理者の連携、顧客満足度の向上のためにも必須です。
このように、在宅コールセンターを成功させるためには、システムや運用体制の整備が不可欠です。
在宅コールセンター導入のステップ
在宅コールセンターを導入する際のステップを以下に示します。
- 現状把握と目標設定現状の離職率・採用難度・応対品質などをデータで把握し、在宅化で改善したい目標を明確にします。(例:離職率を現状の30%から20%に下げる等)
- パイロット導入/ハイブリッド型からのスタートすでにセンター型を運用している場合は、まずは一部オペレーターを在宅にしてシステムや運用の課題を洗い出します。
- セキュリティとインフラの整備通信インフラ・端末・データ保護体制を確保し、業務を安全に行える基盤を作ります。
- スタッフ教育とマネジメント体制の構築在宅特有の課題(孤立感・自己管理等)に対応できる指導や評価制度を準備します。定期的なフィードバックとサポート体制を設けることが重要です。
まとめ
在宅コールセンターは、コロナ禍以降の企業運営において、「非常時の代替」ではなく「業務モデルのひとつ」として定着しつつあります。とはいえ運用や制度の整備なくして成功はありません。導入を検討する際は、メリットだけでなく懸念点をしっかり検討し、自社の業務環境・人材構成に即したシステムと運用体制を設けることが不可欠です。