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2023年4月から中小企業の法定割増賃金率も引き上げ!変更点や計算方法など、準備すべきこととは

段階的に引き上げられてる「法定割増賃金」。2023年4月からは中小企業も引き上げ対象になります。これにより企業側の負担が大きくなると予想されるため、今からでも準備に乗り出して対策を行いましょう。

今回は、法定割増賃金率の変更点や変更後の計算方法をご紹介します。また、企業側でできる事前準備についても解説していきますので、お困りの方は参考にしてみてください。


目次[非表示]

  1. 法定割増賃金率とは
  2. 【2023年4月改正】法定割増賃金率の引き上げについて
    1. 改正で変更される箇所
    2. 改正後の割増賃金率の計算方法
      1. 1. 法定休日に出勤した場合
      2. 2. 所定休日に出勤した場合
      3. 具体的な計算方法
      4. 具体的な計算方法(深夜労働を課した場合)
  3. 法定割増賃金率の改正に備えて中小企業が準備すべきこと
    1. 労働者の労働時間や実態を把握しておく
    2. 時間外労働を減らす取り組みを行う
    3. 代替休暇を導入する体制を整える
  4. まとめ

法定割増賃金率とは

法定割増賃金とは、時間外労働や休日出勤など所定労働時間を延長した場合、基礎賃金をベースに割り増しして支払われる賃金のことを指します。労働基準法第37条によって定められ、企業側は法律に則った割合で割増賃金を支払わなければなりません。

2023年4月より中小企業の法定割増賃金率が引き上げられるため、改正により何が変化するのか理解を深めておきましょう。


【2023年4月改正】法定割増賃金率の引き上げについて

まずは、法定割増賃金率の引き上げによる変更点と計算方法について解説します。

改正で変更される箇所

法定割増賃金率の改正により、中小企業の残業割増賃金率(月60時間超)が引き上げられます。以下の表で、現在と改正後の違いを比較してみましょう。


■月60時間超の法定割増賃金率の改正による変更点

企業規模
2023年3月31日まで
2023年4月1日以降
大企業
50%
変更なし
中小企業
25%
50%

※月60時間超の法定割増賃金率


次に、時間外労働と割増賃金率の関係性について見ていきましょう。

<時間外労働と割増賃金率について>

  • 深夜労働(22:00~5:00):時間外割増賃金率50%に加え、深夜割増賃金率25%も支払う必要がある
  • 休日労働:法定休日以外の労働を時間外労働として割増賃金が発生

※法定休日労働の割増賃金率は35%


以下の①または②に該当する場合は、中小企業として区分されます。

■中小企業の区分について


①資本金or出資の総額
②常時使用する労働者数
小売業
5,000万円以下
50人以下
サービス業
5,000万円以下
100人以下
卸売業
1億円以下
100人以下
上記以外
3億円以下
300人以下

中小企業に該当する企業は、割増賃金率の改正に備えて社内規則などの変更が必要になる可能性があります。

また、派遣労働者や業務委託などを利用している場合、派遣元・委託先の企業規模に従って割増賃金率が決まります。そのため、派遣元・委託先が大企業の場合は改正の影響は受けません。

※参考 厚生労働省・中小企業庁発表パンフレット 「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」


改正後の割増賃金率の計算方法

続いて、改正後の割増賃金率の計算方法をご紹介します。

法定休日か所定休日に出勤した場合かによって計算方法が異なるので、それぞれの場面ごとに詳しく見ていきましょう。

1. 法定休日に出勤した場合

法定休日とは、労働基準法に準じた休日を指します。企業側は週に1日or4週に4日の休日を従業員に与えなければなりません。

従業員が法定休日に出勤した場合、135%の割合で計算した割増賃金を支払う必要があります。

具体的な計算方法は次のとおりです。


■割増賃金率


時間外労働の目安
割増賃金率
計算方法
A
60時間以下
25%
60時間×時給×1.25
B
60時間超
50%
超過時間×時給×1.5
C
法定休日労働
35%
法定休日労働の労働時間×時給×1.35
D
深夜労働
25%
深夜の労働時間×時給×0.25

※支給する割増賃金の総額=A+B+C+D

※参考 厚生労働省・中小企業庁 「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」

上記の計算式だけでは、少々わかりづらいかもしれません。詳しくは後述する「具体的な計算方法」で解説します。


2. 所定休日に出勤した場合

所定休日(法定外休日)とは、企業側が独自に定める休日を指します。法により定められた休日ではないため、所定休日の労働において割増賃金は発生しません。

しかし、1ヶ月あたり60時間を超える法定時間外労働の場合、150%の割合で計算した割増賃金が必要です。

たとえば、法定休日を日曜日、所定休日を土曜日に設定します。1ヶ月あたり60時間を超えて労働し土曜日にも出勤した場合、法定時間外労働の割増賃金を支払わなければなりません。

具体的な計算方法は次のとおりです。


■割増賃金率


時間外労働の目安
割増賃金率
計算方法
A
60時間以下
25%
60時間×時給×1.25
B
60時間超
50%
超過時間×時給×1.5
C
所定休日労働(法定時間外労働
50%
所定休日労働(法定時間外労働)の労働時間×時給×1.5
D
深夜労働
25%
深夜の労働時間×時給×0.25

※支給する割増賃金の総額=A+B+C+D

※参考 厚生労働省・中小企業庁 「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」

次項からは、具体的な残業代はいくらになるのか、労働時間のケース別に解説していきます。


具体的な計算方法

前述した計算方法に以下の前提条件を加味したうえで、具体的な残業代をシミュレーションしてみます。

<前提条件>

  • 基本給:20万円
  • 所定労働時間/1日:8時間
  • 所定労働時間/1年:160時間/月
  • 時間外労働時間:70時間
  • 休日出勤日数:2日(1日当たり8時間の労働とした法定休日の場合)

<割増賃金の計算シミュレーション>

  • 1時間当たりの賃金額:20万円÷160時間=1,250円
  • 60時間以下の割増賃金:60時間×1,250円×1.25=93,750円
  • 60時間超の割増賃金:10時間×1,250円×1.5=18,750円
  • 休日出勤の割増賃金:16時間×1,250円×1.35=27,000円
  • 割増賃金の総額:93,750円+18,750円+27,000円=139,500円

上記シミュレーションの場合、割増賃金の総額は139,500円となることがわかります。

※参考 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「割増賃金の基礎となる賃金とは?」


具体的な計算方法(深夜労働を課した場合)

次に、休日出勤ではなく深夜労働を行ったときの割増賃金をシミュレーションしてみましょう。

<前提条件>

  • 基本給:20万円
  • 所定労働時間/1日:8時間
  • 所定労働時間/1年:160時間
  • 時間外労働時間:70時間
  • 深夜労働時間:5時間

<割増賃金の計算シミュレーション>

  • 1時間当たりの賃金額:20万円÷160時間=1,250円
  • 60時間以下の割増賃金:60時間×1,250円×1.25=93,750円
  • 60時間超の割増賃金:10時間×1,250円×1.5=18,750円
  • 深夜労働の割増賃金:5時間×1,250円×0.25=1,563円(小数点以下は四捨五入)
  • 割増賃金の総額:93,750円+18,750円+1,563円=114,063円

深夜労働を課した場合、割増賃金の総額は114,063円となることがわかります。このとき、休日出勤が絡んでくると計算が難しくなるので、基本の公式を忘れずに覚えておくようにしましょう。


法定割増賃金率の改正に備えて中小企業が準備すべきこと

最後に、法定割増賃金率の改正に備え、中小企業が準備すべきことを3つご紹介します。労務管理の徹底が求められるため、具体的に何をどう対処すべきか理解しましょう。


労働者の労働時間や実態を把握しておく

労働者の労働時間や実態を適切に把握できるよう、社内体制を整えておきましょう。労働時間の実態把握には、以下のポイントを押さえてください。

<労働時間の実態を把握するポイント>

  • 労働日ごとの始業、終業時刻を記録する
  • 客観的に記録できる仕組み(タイムカードやICカード、PCの使用履歴など)を整える
  • 自己申告制の場合、厚労省が提示するガイドラインを踏まえたうえで十分な説明を行う

原則として、客観的な記録をベースとして管理者側が労働時間の確認・管理を行い、労働時間の実態把握に努めます。やむを得ず自己申告で労働時間を把握する場合は、実態調査などを行って記録と実働に乖離がないか確認しましょう。

※参考 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」


時間外労働を減らす取り組みを行う

割増賃金率の改正により残業代が増加する可能性があるため、中小企業は時間外労働を減らす取り組みも必要です。具体的には、以下のような方法が挙げられます。

<時間外労働削減の取り組み>

  • 作業の標準化を行う(作業内容を属人化させない)
  • 残業ができない環境を構築する
  • ノー残業デーなど新たな社内規定を設ける

作業の標準化を行うことで、労働者ごとの作業時間などを統一させられます。また、各労働者が持つテクニックやノウハウなどを社内全体で共有できれば、効率や品質向上なども見込めます。

また、ダラダラと作業させないために、定時を過ぎた時点で仕事ができない環境を作りましょう。たとえば、PCのシャットダウン、社内照明の消灯などが挙げられます。もちろん、作業内容や仕事量などの見直しも必要ですが、社内全体でメリハリを持たせることが重要です。

そして、社内規定については形骸化させないことを意識してください。たとえば、ノー残業デーを設けたとしても形だけになってしまい、残業する労働者が減らなければ意味がありません。評価制度のひとつに取り入れる、達成した社員には賞与を与えるなど、労働者のモチベーション維持を意識することが大切です。


代替休暇を導入する体制を整える

60時間超の法定時間外労働が発生した場合、割増賃金の代わりに代替休暇を付与するのも有効です。ただし、代替休暇を付与するには、労使協定で休暇時間の算出方法を定めなければなりません。労使協定で定められる休暇時間の具体的な算出方法は以下のとおりです。

<代替休暇の算出方法>

  • 代替休暇の時間=(1ヶ月の時間外労働時間-60時間)×換算率
  • 換算率=代替休暇未取得の場合に支払う割増賃金率-代替休暇取得時の割増賃金率

では、具体的に何時間の代替休暇が付与できるのか、以下の前提条件をもとにシミュレーションしてみましょう。

<前提条件>

  • 所定労働時間:8時間
  • 時間外労働時間:76時間
  • 代替休暇未取得の場合に支払う割増賃金率:50%
  • 代替休暇取得時の割増賃金率:25%

<代替休暇時間のシミュレーション>

  • 換算率:50%-25%=25%
  • 代替休暇の時間:(76時間-60時間)×0.25=4時間

上記の場合、代替休暇を4時間(半日)分付与することができます。なお、代替休暇は義務ではなくあくまでも制度として設けられる仕組みなので、労使協定を締結しつつ、就業規則には「規定」と記載しておくようにしましょう。

※厚生労働省 「2.法定割増賃金率の引上げ」


まとめ

法定割増賃金率の改正によって、従業員に支払う残業代の増額が見込まれるため、従業員の残業時間の削減は必須といえます。しかし、対策を講じても早々に期待する効果が得られるわけではなく、中長期的に効果測定を行わなければなりません。従業員の反応も意識しつつ、無理のない範囲で少しずつ法改正へ対処できる環境を構築するようにしましょう。






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